All I have to give
「あー、やっぱここが一番落ち着くな」
食べるだけ食べて、ハルは突然帰りたいと言い出して。パーティーの途中で抜け出して帰ってきた。
ハルは疲れた様子でソファに座って、深く息を吐き出す。
私はガラス越しに見える夜景を瞳に焼きつけていた。
こんなに綺麗な景色と過ごすのも…
「結愛?」
背後にハルが来て、後ろから抱き締められる。
ガラスに映る重なった二人をじっと見つめて、あぁもうすぐ魔法が解けてしまうんだと静かに思う。
「……ハル」
泣かない、絶対に。
「ありがとな」
まるで、最後みたい。
グッと唇を噛み締めて、首を横に振った。
「お前を傷つけたくなかったのに。また俺は…」
「…傷ついてなんか、ないよ」
「そっか…」
ギュッと力が込められてハルの鼓動が、自分の鼓動と重なる。
同じリズムで。
二人して黙ったまま、暫くそうしていた。
「ハル…あたし、出てくよ」
自分で言っている言葉なのに、現実味を帯びないのはどこか傍観しているからなのか。
それとも、ハルに引き留めてもらいたいからなのか。
「……そっか」
ハルは、消えてしまいそうなくらい小さな声で。でもはっきりと、私の耳元で言った。
魔法が…ゆっくり、解けていく。
「おやすみ」
ハルの力が緩んだ瞬間に、するっと抜けて部屋へと逃げた。
涙がもうすぐそこまできていたから。
言えなかった。
私はお姫様なんかじゃない。
お姫様なんかじゃ、ないんだよ…
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