All I have to give



“バーカ。遅えんだよ”


ふとした瞬間に蘇る。


ハルの声。


今はもうヒグラシの鳴き声に溶けて消えてしまいそうだ。


夏の終わりを静かに感じながら、縁側で夕焼けをぼんやりと眺める。


ハルは日和さんと結婚したのだろうか…



分かりきった疑問を自分にぶつける。


答えなんて、もうこの耳で聞いているのに。

諦めの悪い私は、まだどこかで日和さんが行方不明になったら?とか考えてしまう。

ハルの幸せは、日和さんと叶うものなのに。



「結愛、仕事行ってくるから戸締まりしっかりね」


「行ってらっしゃい」



不思議だ。

帰ってきてから母は別人のようだ。

けれど、言われたんだ。


「私は今までひどい母親だった。結愛がいなくなって、気付くなんて遅すぎかもしれない。これからはちゃんと向き合っていきたいの…許して、結愛…本当にごめんなさい」


顔をくしゃくしゃにして泣くお母さんを見て、私も泣きながら頷いた。


「頑張るから…」



思い出すとまた涙が出てきてしまう。

私はテレビのリモコンに手を伸ばした。



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