All I have to give



「…俺、もうあのマンションも会社も何も持ってねぇけどさ…」



意識が段々霞んでいく。
待って、ハルが話している声が…



気が付くとベッドの上だった。

やっぱり都合のいい夢を見ていたんだ…




「結愛?!」


「おか…さ…」



視界いっぱいにお母さんの顔。


職場からそのまま駆けつけてくれたのか、エプロン姿だ。


「貧血だって。もう、心配かけないでよね」


「…ごめん」



何故か、涙が溢れて枕に染みる。


お母さんの優しさに触れて本当に嬉しいのに。


心のどこかで、まだ夢から醒めたくなかったと思ってしまった。


その狭間は、すごく苦しい。


「本当に、良かった」


お母さんはそう言って、ティッシュで私の涙を拭いてくれる。


「今日はゆっくり休んで。こんな格好だし、看護師さんに話してから帰るね」



「うん、ありがと…」



ハルの声や温もりが、蘇る。

ただの、夢だったのに。




.
< 76 / 87 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop