All I have to give
「…俺、もうあのマンションも会社も何も持ってねぇけどさ…」
意識が段々霞んでいく。
待って、ハルが話している声が…
気が付くとベッドの上だった。
やっぱり都合のいい夢を見ていたんだ…
「結愛?!」
「おか…さ…」
視界いっぱいにお母さんの顔。
職場からそのまま駆けつけてくれたのか、エプロン姿だ。
「貧血だって。もう、心配かけないでよね」
「…ごめん」
何故か、涙が溢れて枕に染みる。
お母さんの優しさに触れて本当に嬉しいのに。
心のどこかで、まだ夢から醒めたくなかったと思ってしまった。
その狭間は、すごく苦しい。
「本当に、良かった」
お母さんはそう言って、ティッシュで私の涙を拭いてくれる。
「今日はゆっくり休んで。こんな格好だし、看護師さんに話してから帰るね」
「うん、ありがと…」
ハルの声や温もりが、蘇る。
ただの、夢だったのに。
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