満ち潮のロマンス
頭…痛い…

頭痛で目が覚めてゆっくり眼を開けると見慣れない天井。
何も置いていない畳の部屋に寝慣れない布団の上。
横には綺麗に畳まれたジャケットと鞄、それからお水まで置いてある。

服…は着てる。

ちょっと待って、これはかなりお世話になってしまった感じ…?

道端に横なっちゃって、男の人が来て…
どんどん思い出してきた。
吐いたよね。うん。吐いた。
そっから全く記憶がない。
って事はその人の家だよね?

…消えたい!今すぐ!
いい年した女が酒に酔いすぎて知らない人の家で吐いてお世話になるなんて…!

ゆっくり起き上がるとちょっと立ちくらみ、それから頭痛。
でもそれほど酷くない。

鞄から携帯を取り出して時間を見ようにも電源が切れていた。
全くどうしようもない。

お水を一口飲んでジャケット片手にそっと襖を開ける。

広い部屋が繋がっていた。
長テーブルがいくつか並び墨の匂い。壁には子供が書いたような習字が何枚か張ってあった。
この家書道教室?

そこを通ってまた襖を開ける。
広い廊下に出た。古い家だけどとても綺麗。

あたりを見渡していると隣の部屋から物音、
ふっと人が出てきた

「あぁ、起き上がれて良かった。具合いかがですか?」

ここの家の人だろうか。昨日声をかけてくれた人だろうか。

すらっと背の高い着物を着た40代くらいの男の人。
物腰が柔らかい。

「あ、の、昨日は本当にとんだご迷惑を…本当にすみません…」

頭を下げるとまた頭痛。恥ずかしくて顔を合わせられない。

「いいえ。無事で良かった。
良ければこちらでお茶をどうぞ。」

そう穏やかに笑いながら言うと居間に通された。

「適当に座っていて下さい。」

歩き方や仕草が凄く綺麗な人だと思った。

広い今の奥には縁側。男の人が行った場所は台所だろうか。
凄く広い家だ。

「どうぞ、」
「ありがとうございます…」
「春だと言ってもまだ寒いですから、昨日は体が冷えきっていたから風邪をひかないといいのですけど。」
「や、もう本当に色々と…恥ずかしくて…すみません」
「危ないですからね。あんな時間に綺麗な女の人が道端でふらふらしているなんて」
「…あの、お布団とかも、なんかもぉ色々とお世話になってしまって何てお礼を言っていいか…」
「気にしないで。僕の家の前で吐かれては困るからつい家の中に入れてしまった」
「あぁもぅっ!すみませんー」

はははっと声に出して笑うこの人の顔が可愛いななんてつい思ってしまった

「あの、私じつはあんまり記憶が無くて…失礼な事を言ったりしていたらすみません…」
「大丈夫ですよ。吐いてすぐに眠ってしまったし、あぁ、呂律が全然回っていなくて可愛かった」
そう言ってまた笑う。

「そ、そんなに笑わないでください…てか吐いてすぐ寝るとか…もぉぉ顔から火が出そうです」
「久しぶりにあんなに酔った人を見ました」

くくっと笑って私の顔を見る。

「でも本当に気をつけてくださいね」
「反省して…ます…もう深酒はやめます…優しい方で良かった…あの時間に外に居たんですか?」
「いえ、うちの猫が昼から帰ってこなくてちょっと様子を見に外に出てみたらあなたが居た」

「猫?」
「ええ、真っ黒な。昨日寝そべってるあなたを見てうちの黒が人間になったのかと思った。綺麗な黒髪だったから」

「い、以外とメルヘンなんですね」
ぶはっとつい笑い吹き出してしまった。着物を着た落ち着いた大人が猫が人間になったのかと思ったなんて
おかしな人

「戻ってきましたか?猫ちゃん」
「いえ、まだなんです」
「ふらっとすぐ戻ってきますよ。私も前に居た猫はよく家出してましたし」
「だといいんですけど」

変な感じ。違う世界に迷い混んだような。
この人と居ると凄く気持ちが良い。穏やかで暖かい。
もう少し、なんて思ってしまう。

「お名前を、良ければ」
「あっ、すみません、そういえば。
吉岡っていいます」
「吉岡さん。」
「はい。わたしも名前聞いてもいいですか?」
「藤堂です。…藤堂義嗣」
「わあ!芸能人みたいな名前!素敵ですね」

とうどうよしつぐ??聞いたことあるような…
なんかひっかかるけど全然ぴんとこない。

「あの、書道を教えてるんですか?」
「えぇ、子供達に火曜と金曜日だけですが」
「わぁ!凄い!先生なんですね」
「そんなに偉いものではありませんよ」
そう言って先生はまた静かに笑った。



そのあと深々とお礼をして外にでたらびっくり。
本当にわたしの家の近くでデカイ家だな~なんて見てたとこだった。
庭の手入れも綺麗にしてあるお屋敷みたいな。

何にも知らないのにどうすればまた逢えるかなんて話しているときにずっと考えてた。
あの先生にまた逢いたい。
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