Secret
教室に入ると、いちばんに目に入ったのは、窓際の席に腰を降ろし机に肘をついて外を眺める乾 諒だった。

転入してきてまだ日が浅い所為か、その容姿の所為か、人を寄せ付けない雰囲気を纏っている所為か、彼がクラスメイトと会話している姿を私は一度も見たことがない。



教室にいたくない雰囲気は常に醸し出しているけど、転入以来彼は無遅刻、無早退、無欠席を貫き通している。

容姿だけみれば授業なんてサボりそうだけど、授業中も彼が教室を抜け出すことはなく教師の話を聞いているのかは分からないけど、机の上には教科書が拡げられている。

まだ疎らにしかいないクラスメイト達。

この時間に登校を終えている生徒といえば参考書に釘付けで他人の行動に関心を持つような人はいない。

今が絶好のチャンスかもしれない。

そう考えた私は

「乾くん」

彼の席の前に立ち、声を掛けた。

怠慢な動きで視線がこちらに向けられる。

「あの……何か困ってることとかない?」

なにを言っていいか分からず、ついさっきソエちゃんが言ってくれた言葉を口にしてみた。

こんな時、自分のコミュニケーション能力の低さを痛感する。



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