Secret
誰もいないと思ったそこには顔を合わせたくなかった人がいた。

机に腰かけ、窓の外に視線を向けていたその人はドアが開いた音に反応してこちらに視線を向けた。

相変わらず1年生には見えないくらいに着崩された制服姿の彼は人を寄せ付けない雰囲気を纏いそこに佇んでいた。

「……乾……君」

彼は、私を一瞥するとまたその視線を窓の外に戻す。

微かに上擦った私の声は暖かなオレンジに染まる空気に溶けて消えた。

静まり返った空間が私を我に返らせる。

……固まっている場合じゃない。

さっさとケイタイを取って帰ろう。

苦手な男の子と教室内に2人なんて冗談じゃない。

私は、足早に自分の席に近付くと机の中を覗き込む。

そこには見慣れたケイタイがあって私はホッと胸を撫で下ろした。

それを掴み、ポケットに納めると立ち上がり

また足早に教室を出ようとした刹那――

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