Secret
まっすぐに私の元にやってきた先輩は私の机に肘をついてしゃがみ込むと下から私の顔を覗き込んでくる。

綺麗に整えられた眉の下にある髪と同じ茶色い瞳が私を見つめている。

だけど、やっぱりその顔には見覚えが無かった。



それもその筈、私達1年生はまだ、入学して1ヶ月。

学年の違う先輩達との接点なんて殆どなく、しかも私達の教室がある東校舎は1年生の教室と専門科目の教室があり、西校舎には2年生と3年生の教室があるという独特の創りになっている所為で私が先輩の名前や顔を知らなくても、それは仕方がないのだけど突然の来訪者に私は動揺を隠せなかった。



「……あの……」

「うん?」

「なにか?」

「食事中に申し訳ないんだけど、ちょっと話があるんだけど」

「話ですか?」

「うん。だから少しだけ時間を貰ってもいい?」

「……はぁ……」

「じゃあ、着いて来てくれる?」

「今ですか?」

「うん。今だと物凄く助かる」

本当は断りたかった。

それが無理ならせめてお弁当を食べ終えてからにして欲しかった。

そうお願いしてみようかとも思ったけど

先輩にそう言うのも気が引けるし

クラスメイト達に注目されているにも関わらず、そんな事を言えば『どんだけ腹減ってんだよ』と思われかねない。

総合的に考えて、これは素直に着いて行くしかない。

そう考えた私は、お箸でつまんだままのご飯を口に放り込もうかと一瞬考えたけど、あまりにも悪足掻きに思え、ご飯をお弁当箱に戻して蓋を閉めた。



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