Secret
「姫花、災難だったね」

「あんま気にすんなよ」

心配そうに声を掛けてくれる乃愛と瑛太に私は苦笑を返す。

……友達がいるって心強いな……。

しみじみとそんなことを考えながら、何気なく視線を動かした私はその視線を一点で留めた。

それはいつも自分の席に座ったままほとんど動かない由良君が珍しく立ち上がったからで……。

もの珍しい光景に、思わずガン見していた私は由良君と一瞬目が合ったような気がした。

はっきりと断言できないのは、由良君の瞳は相変わらず長い前髪で覆われていたから。

それでも身体の向きとか、顔の角度からして目が合った確率は高いと思うんだけど……。

由良君は何事も無かったかのように静かに後ろのドアから教室を出て行ってしまったから、もしかしたら私の勘違いだったのもしれない。
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