紅狼Ⅰ《レッドウルフ》
序章
【とある紅い狼】




「ちくしょ……う……化物め」





足元で転がる男はそう、おびえきった表情で声を震わせた。





『なさけな』





先にしかけてきたのはそっちだってのに。




鉄くさい血の臭いが鼻をかすめる。

俺は、男のすぐ脇に落ちている鉄パイプを、ゆっくりと拾い上げた。




「ひっ、ひいいいいっ」




途端、はじけたように男は背中を丸めて走りだす。

醜い。

どことなくゴキブリの走り方に似ている。




『……別に殴りゃしないっての』




お前じゃないんだから。

呆れながら男を見送る。



鉄パイプを持つコートの裾から、ポタポタと血が垂れる。




……あーあ、もらっちゃった。




痛いなあ。


今日は風呂入らんとこ。


ポイッと鉄パイプを投げ捨てると、コンクリートとぶつかって派手な高い音を響かせた。





『帰ろうかな』





遊びに行こうと思ったけど、この手でダーツしたら矢投げる度血が飛びそうだ。

店の人達のいい迷惑になりそ。





『ついてないな』





ボソっと呟いて、ゴミゴミとした路地を歩き出した。



< 1 / 19 >

この作品をシェア

pagetop