紅狼Ⅰ《レッドウルフ》
『……言ってる意味がわかんねぇんだけど?』
「分からなくていい。俺が欲しいと思ったからだ」
会話が斜め上なんですけど。
言葉のキャッチボールできてるこれ?
『恩でも売るつもりか?生憎誰ともつるむつもりはねぇよ。てか誰よお前』
「【燐龍】、総長の黒神 零弥(クロガミ レイヤ)だ。紅狼をウチに勧誘しようと思って追ってたんだが――女だったとは驚いたよ」
……ちょっとまって。
【燐龍(リンリュウ)】っていったよね。いま。
族に疎い俺でも知ってる。超有名な、
この辺、統べてる族じゃないか。
しかも、――バレた。
《女》だって、ずっと隠してた秘密が。
――よりによって、
絶対バレたらまずそうな奴に。
……たしかに。
不良にボロボロにされた服からは、普段は隠しているはずの、男にはない胸の膨らみがのぞいていて。
一目で性別がわかる状態だった。
『バラすのかよ』
「んなことしねぇよ。ただいっただろ?欲しいだけだ。繋いでねぇ犬はどっかにいっちまう、いわば鎖さ。お前は俺のモノ。どのみち俺に従うしか選択肢がねぇんだよ」
そう言うと、零弥は俺の顎に手を伸ばし、くいっと持ち上げる。
吸い込まれそうな銀色の瞳。
「――今日から俺がお前のご主人様だ、ワンコロ」
低く甘い声で、奴はそう告げた。
そしてそのまま、形の良い唇がどんどんせまってきて……
『――ちょちょちょ待っ!』
俺は零弥を振り払った。
あ、あぶ、あぶねぇ!
いまめっちゃ、き、キス、しようとしてきたぞコイツ!?!?
流されるとこだった。
顔が熱い。
心臓がバクバクと早鐘を打つ。
「可愛い」
『ばっ…!?』
な、なにいってんだ!
危険だ。
コイツは危険だ。
逃げよう。
いろいろと危機を感じた俺は、ボロボロの身体にムチを打って走り出した。