紅狼Ⅰ《レッドウルフ》
2話 犬、捕まる。
週末は、とんでもない目にあった。
絡まれるわ、怪我するわ、初対面のどこぞの総長にワンコ認定された挙句、ファーストキスを奪われそうになるわ。
運がないにも程がある。
しばらく大人しくしておこう……。
今日は真面目ガッコー行くか。
――――――
――
「夏川さん、今日は体調いいの?」
『うん、大丈夫みたい、ありがとね』
「そう、でも無理しちゃだめだよ?」
俺は心配してくれるクラスメイトに、柔らかく微笑み返した。
【私立時葉学園(しりつときはがくえん)】
それが俺ーー夏川 茜(ナツカワ アカネ)が、通っている学校である。
割とぼっちゃん校で、生徒にはボンボンが多い。また、敷地に大きな寮があり、半分以上の生徒が寮に住んでいる。
なぜそんな学校に、俺みたいなど平民が通っているのか。
理由はたいしたことない。
単に第一志望の公立に落ちたからだ。
で滑り止めに受けた時葉学園に来た。
もちろん学費は高いため、寮生活までする余裕がない。
ので家のあるあの《街》から、学校までチャリ通学してる。
……バイク?
んなもん乗り回せるワケなかろうが。
なんせ学校では病弱なお嬢様で通しているのだ。
どでかいバイクブォンブォンいわせてたら、もう病弱の病の字もないわ。
真っ赤な髪の上からウイッグを被り、施すナチュラルメイク。
仕上げにノンフレームのインテリメガネ(伊達)をかければ、黒髪ロングストレートの知的お嬢様の出来上がりである。
【紅狼】であることなんて、
誰一人して気づかない。