紅狼Ⅰ《レッドウルフ》
ガチャ
「おつかれさまです」
「あら、黒神君いらっしゃい!あら……そちらの方は……?」
「僕の補佐です」
『はッ!?何言ってい゛ッ……』
とっさに異論を唱えようとすれば、
後ろで思いっきり腕の肉をつねられた。
「(いいから〝yes〟と言え駄犬)」
ボソッと耳元で、零弥が呟く。
『ハイソウデス補佐デス。夏川イイマス』
「二人ともコーヒーはいる?」
「はい、お願いします」
「わかったわ〜」
そう返事した女の人は、コーヒーメーカーに豆を入れはじめる。
……ネクタイの色が違う。
2年生の先輩かな。
手入れされたセミロングの茶髪。
……キレイな人だなぁ。
「フフッ黒神くん、やっと補佐役決めたのね、ずっと、誰も選ぼうとしないからみんな心配してたのよ」
「すみません。僕は、やっぱり信頼できる人って考えると選ぶのも時間かかってしまって」
……ボク。
僕って言ったよ今?うわぁ……似合わねぇ。
なんかもうすごい、猫かぶりはたから見てるのってすっごいわコレ。
で、全然話について行けないんだけどどういう状況なのこれ。
「あらあら、黒神君がそこまで言うなんて余程ねぇ貴女。あ……もしかして彼女さんかしら?」
『違いますよ!?!?』
「あらそうなの?てっきりお似合いだから」
「ははッでもいろいろ知り合った仲ですよ、いろいろ、ね」
「あらあら〜」
……もうつっ込むまい。
めんどくさくなってきた。
「はい、コーヒー2つね」
「ありがとうございます。夏川さんは砂糖いるよね?僕はブラックだから。どうぞ」
「(夏川さんって…)ど、どうも」
受け取ったシュガースティックを、湯気立ち上るコーヒーに投入している時、脇からその声は聞こえてきた。
「さっすがイケメン様は手が早ぇこと。キープかァ?1人分けてくれよ」
隠す気もなく悪意のある言い方をした方を向けば、ドカッと机に足を乗せた男。
ニヤニヤしながら俺を見てくる。
なんつーか、気持ち悪い。
零弥は、視線も合わせずとても冷たい口調で答えた。
「水瀬〝会長〟、もう4時15分回ってますけど。会議の時間遅らせるっていったの、会長ですよね?早くしてくれませんか?僕もいろいろ用事があるので」
「あ゛!?黒神テメェ1年の分際で生意気なんだよ!」
「そうですか?それはすみません」
「糞が!!先輩を敬え!」
「ですが、最近のいろいろな校内の事件もそうですし、1カ月後の役員選挙の準備もあるので、早く進めてくれませんか」
「……チッ、覚えてろよ。テメェ俺に逆らって役員続けられると思うなよ?」
「……そんなとてもとても。逆らう気なんてありませんよ?センパイ。僕は校内環境改善の為に、早く問題解決に取り組みたいだけです」
嘘なんてつけません。
そんな風の屈託のない笑みを浮かべて、零弥は水瀬会長に言い放った。
だが隣にいた俺は見ている。
凄まじくイラついているのだろう。
零弥の足がカタカタカタ貧乏ゆすりしているのを。
コーヒーカップの取っ手が割れそうな程に、その手に力が入っているのを。
ワァ怖い。