銀座のホステスには、秘密がある
「サラ」
「なに?」
「入り口の横に座ってる娘。さっきからサラばかり見つめてる」
「どの娘?」
「オレンジ色のドレスを着た娘。サラを見るのは初めてなんだろうね」

鏡越しに入り口を見ると、オレンジ色のミニドレスを着た女の子が半開きの口でずっとこっちを見ている。

「またサラファンが増えたな」
ケンジさんがアタシの耳元で嬉しそうに言う。

「サラを見てたら、絶世の美女って言葉が浮かんでくるよ。俺が歌手なら歌ができそう」
「ぅふふ。演歌じゃないでしょうね?」
「はは。ブルースぐらいにしとくよ。演歌ならサラんとこのママに捧げるな」

ははは、と同時に笑った。
ママに演歌、似合い過ぎる。

銀座に来て右も左も分からないアタシを雇ってくれたのが、今のお店。
昔、女優だったというのが自慢のママがアタシを育ててくれた。
本当に女優だったかどうか誰も知ってる人はいないけど、
そんなママのもと数々の失敗を繰り返して今のアタシがある。

鏡越しにケンジさんに微笑み返し、また雑誌へ視線を落とす。
ケンジさんの細かなテクニックを髪に感じている時、
カッ、カッ……
派手なヒールの音が聞こえてきた。

「ケンジ。今日もお願いね」
やけに鼻にかかった声。

「結菜ちゃん。今日は遅かったね」
「うん。ちょっとね」
「もう少し待っててもらっていい?」
「……なるべく早く来てね」

鏡に映るユナと呼ばれた女は、ぽってりした唇を尖らせてアタシに視線を送ってきた。
対抗意識を前面に出しながら。
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