銀座のホステスには、秘密がある
殿から彩乃に視線を移すと、彩乃は小さく頷いた。

「え?」
「ごめんなさい。」
「うそ……」
「言うつもりはなかったんです」
「なんで……」
彩乃は知ってるの?
アタシが女じゃないって知ってるから好きになったの?

「女同士でおかしいですよね?私もこんな気持ちになったの初めてで……」
「あ……」

「嫌いに、ならないでください。できれば今まで通りで……」
「今まで通りって……それじゃ、殿は……」

チラリと殿を見ると、クシャリとした笑顔でアタシを見てた。

「そうだな。俺は、今日、はめられそうになってたってことか……この責任、取ってもらわなきゃな」
そう言って、アタシの手首を握った。

「殿。相手が違う」
「サラさん。良かったですね」
「彩乃!」
「……私、サラさんの声が好きです。サラさんに名前呼ばれると、嬉しくてドキドキしてました。今日は、だましてごめんなさい。サラさんの家に呼んでもらえて幸せでした。
上杉様、あとはお任せしますね。サラさんをよろしくお願いします」
「ちょっと待って」
彩乃が立ち上がり自分の荷物のところへ行く。
止めようと立ち上がりかけたアタシの腕を殿が引っ張っている。

「殿。離して。彩乃、待って」
「サラ……」
「ダメよ。彩乃のことが好きなんでしょ?止めなきゃ、彩乃が行っちゃう」
「落ち着け。俺は彩乃のことは最初っから妹みたいにしか思ってない。それは彩乃も知ってる」
「殿……」
「彩乃だって同じだ」
「そ、んなことない」

「ううん。そうですよ」
振り返ると彩乃はコートを羽織ってバッグも持って、すぐに帰るって格好でそこに立ってた。
「上杉様はお得意様です。私の好きな人は別にいます。でももう二度と言いません。好きな人には幸せになってほしいから」
「彩乃……」
「サラさん。上杉様。……失礼しますっ」
「彩乃!」

彩乃が急いで玄関に向かう。
こんなはずじゃなかった。
アタシは、彩乃と殿の幸せを願ってたのに。
さっきまで、計画は上手く進んでたのに。

追いかけようとすると手首を引かれた。

「殿……」
「そっとしといてやれ」
「でも……」

後ろで玄関の扉がパタンと閉まる音が聞こえた。
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