銀座のホステスには、秘密がある
殿は宣言通り、それ以上を求めてこなかった。

自分で自分を抱きしめるくらい悔しいけど、
アタシが女じゃないって知られる方が辛い。

知ったら、殿に軽蔑されるだろうか。
充伸の時のように、拒否されるのは嫌だ。
もう、大事な人を失いたくない。
このまま幸せな時がずっと続いてほしい。

「アキラ。飲み直すか?」

今までと変わらない殿の笑顔。
一瞬も疑ってない目。

「はい」

ツキンと胸に痛みが走る。

本名を告げた時に、疑われたらって怖かった。
けど、今は嘘をついてることに胸が痛んでる。

「達樹。熱燗でいい?」
「あぁ。こたつで暖まりながら熱燗っていいな。アキラも飲めよ」
「ぅふふ」
「どうした?」
「本名で呼ばれるの……くすぐったい」
「おまえだって、俺の本名呼び捨てしたやん」
「ねぇ。達樹はどこの出身?関西?」
「もっと西」
「九州?」
「もうちょい東」
「あー。あの辺ね。苦手なとこ」
「おまえー。そうなのよ。関東の人間って俺の故郷飛ばすんだよな。関西の向こうは九州って認識らしいな」
「そんなことないけど、あんまり行ったことないから、難しいの」
「いつか、連れてったるな」
「どこに?」
「俺の故郷」
「あ……」

トクンって胸が弾む。
これが幸せって言うんだろうなって、温かい気持ちになる。




だけど、アタシには未来はない。
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