銀座のホステスには、秘密がある
「そんな顔するなよ」
「え?」
「顔引きつってるぞ」
「そんなことない」
「いいよ。無理すんな」
「達樹……」
「おかわり」
アタシの言葉を遮るように、熱燗のとっくりを渡された。

「あ、うん」
立ち上がりかけた時に、ごろんと横に倒れた殿。

「どうしたの?」
「飲み過ぎた。アキラにつぶされた」
「そんなことないよ。いつもの殿ならこれくらい飲んでるよ」
「家飲みはくるな」
「大丈夫?」
「あぁ。ちょっとだけ横になる」
「帰らなくて大丈夫なの?」
「朝まで起きなかったら、8時に起こして」
「仕事?」
「あぁ……」

最後の返事はもう声になってなかった。

「……」

スースーと規則正しい寝息が聞こえる。

「早っ」

こたつの布団にくるまって、倒れるように寝てる殿。
疲れてたのに、無理させてしまったのかもしれない。

「殿……達樹?ここで寝てると風邪ひくよ」

警戒心の全くない顔で、瞼を閉じてる殿が、笑えるくらい可愛かった。
ここに誰かが泊まることなんて初めて。
他の人の気配があるこの部屋は、寒くはない。

「明日、8時ね」

立ち上がり、片付けてる時に気が付いた。

「朝ごはん!」

そこまで読めなかった。
痛恨のミスだ。
やっぱりアタシの計画は漏れがいっぱいあった。

やっぱり殿は和食なんだろうか。
せめて味噌汁とご飯はいる。
ヤバイ。
コンビニに味噌ってあるの?

部屋をバタバタと動き回ってるのに、殿は口を開けて寝てる。

「殿!こたつで寝たら風邪ひくよ」
ダメだ。
全く起きる気配がない。

しょうがないからソファーに殿を引っ張りあげて、布団をかけてコンビニへと走った。
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