銀座のホステスには、秘密がある
ほとんど寝られなかった。
早起きしなきゃいけないって気が張ってたのもそうだけど、リビングのソファーの上に殿がいるっていう状況に落ち着けなかった。

だから、早起きして朝ごはんを作ったって言うより、夜の続きで今がある感じ。

当然、眠たくなってきた。
殿が出かけたら、一眠りしなきゃ……

「んん……」

まだ7時半なのに、殿がもそもそと動いてから、
ガバリと起き上がった。

目を丸くして部屋を見渡して、アタシの顔を見て更に驚いている。

「おはよう」
誰かに朝の挨拶なんて、照れる。

「あぁ。はよ……」
まだ眠そうな顔で殿が言う。

「まだ7時半だよ。ご飯ができてないから、先にシャワーする?」
「あぁ。そうだな」
「よく眠れた?」
「あぁ」
「そう。良かった」
「なぁ。俺、自分でソファーに移動した?」
「ううん。こたつで寝てたよ。風邪ひくからアタシが運んだ」
「……あ、そっか。ありがとう」

寝ぼけてる殿は、まだソファーから立ち上がろうとしない。

「達樹?着替えも買っておいたよ」
「あ?あぁ。悪いな」

シャワールームに殿を案内して着替えも置いた。

「アキラ」
「ん?何?」
「いや。何でもない。着替えありがとな」
「ううん。ご飯用意しとくね」

なんだかこうしてると奥さんになったみたい。


照れたアタシは殿の方は振り返らないで、くすぐったい気分でキッチンに戻っていった。
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