銀座のホステスには、秘密がある
「ヤダもう。何やってるの?」
「卓ちゃん、おしぼり持ってきて」
「サラちゃん。大丈夫?」
「ドレスがシミになっちゃうわよ」
「おしぼり、これ使ってください」

ワって感じで周りが騒がしくなった。

「ごめんなさい」
目が合った龍太郎ママに謝るけど、どこか現実的ではなくて。

騒がしくなる周りと逆比例するように、音が聞こえてこない。

「全然大丈夫よ。それよりサラのドレスが汚れちゃったじゃない。拭いておいた方がいいわよ」
龍太郎ママが立ち上がりそうになったところを、
「あたしが案内してくるから」
キャリーちゃんが先に立ち上がった。

怖い。

このタイミングでキャリーちゃんと二人になっちゃいけないって思うのに、
「そうね。裏で落として来たら?」
龍太郎ママがお店の奥を指してる。

そこはお客は入れない場所なんじゃないの?

「分かった。サラちゃん、こっちだよ」
キャリーちゃんがアタシの腕を引く。

殿の方を見たら、行って来いって目で頷かれた。

行きたくないのに、みんなが行って来いって心配そうな顔してる。

アタシはお客だよ。
ここの娘じゃないよ。

「じゃ、ちょっとお借りします」

なんで断れないんだろう。
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