銀座のホステスには、秘密がある
「うん。大丈夫そう。あんまり入ってなくてよかったね」
キャリーちゃんがアタシの足元にしゃがんだ姿勢のまま、アタシを見上げてくる。

一見派出な格好のキャリーちゃんは意外にも丁寧にアタシのドレスを拭いてくれて、
……良い娘だ。
良い娘過ぎて、このままそっとしておいてほしい。って気持ちがあるのに、そうも言えないような気がしてきた。

「ありがとう。ごめんね」
「いいよ」

おしぼりを片付けてるキャリーちゃんに声をかけて、丸椅子から立ち上がった。

「戻ろっか?」

できればこのまま逃げ出したい。

なのに、
「サラちゃんさ、動揺しすぎじゃない?」
キャリーちゃんの目が怖いくらい座っている。

「そ、んなことないよ」
「もしかして上杉プロデューサー、知らないとか?」
「……」
「うそ!言ってないの?」

もう、上手く嘘がつけない。

「えー?!そんなことできるの?あ、じゃぁ、二人は付き合ってるんじゃないんだ」
勝手に言いだして、勝手に解決してくれたキャリーちゃんに、一瞬だけ逃げられると安心した。

でも、そんな簡単に逃げられる訳なんてなくて、
「そんなことないか。あの雰囲気は恋人同士だったもん」
「あのさ、キャリーちゃん」
「なに?」
「アタシは……女だよ」

たっぷり3秒の間を開けて、キャリーちゃんは「は?」って言った。

そうだよね。
もう無理だよね。
分かる。
今まで上手い嘘もつけずにただオロオロしていたのに、グラスだって動揺して落としといて、今更それはないだろって自分でも思うよ。
でもさ、他にどんな逃げ方があるっていうの?

「女だよ」
無駄だと思っていても、もう一度言ってしまった。

「何言ってんのサラちゃん?あたしにまで嘘をつき通そうとしてるの?」
「嘘じゃないって言うか……」
「お仲間でしょ?」
「……」
「それとも、あたしたちとは違うって思ってるの?」
「キャリーちゃん……」
「それって、あたしたちをバカにしてるの?」
「違うよ。そういうんじゃないけど」
「自分だけは違うって思ってんの?」
「そうじゃない」
「じゃ、なんで言ってないの?ふつーさ。付き合ってる人には言うよね?隠して付き合うなんて卑怯だよね?」
「……」
「残念だよサラちゃん。ちょっと憧れてたのにさ」
「キャリーちゃん」
「触んないで!あたしとは違うんでしょ?そうやってずっと嘘ついてればいいじゃん」

アタシが伸ばした手を振り払うようにして、キャリーちゃんは出て行ってしまった。
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