銀座のホステスには、秘密がある
キャリーちゃんが言ってることは、正しい。

「アタシ……」
殿に言ってない。
すごく重要なことなのに、隠して、上辺だけの幸せな時間を貰ってる。

こんなの許されるはずがない。

殿を騙してる。

「……殿……」
だけど、言ってしまえばこの関係は終わる。
殿はもう笑いかけてはくれない。
きっと殿も離れていく。
大事な事も言えてないのに、殿の彼女気分でいたなんて、なんてバカだったんだろう。

戻らなきゃって思うのに、腰が重たい。

「はぁ」

これから、どうしたらいいんだろう……


「随分、盛大なため息ね」
一人きりだと油断してたら、メイクルームの入口に龍太郎ママが立ってた。
「今の顔、とてもブサイクだったわよ。ダメよ。お仕事中じゃないからってそんなお下劣な顔晒しちゃ。誰が見てるか分からないでしょ。今の、私みたいにね」
「ごめんなさい。あの、お部屋ありがとうございました」
笑顔を作って早々に立ち去ろうとしたのに、
「サラ。お待ちなさい」
龍太郎ママに腕を掴まれた。

それはもう有無を言わせない力で、
「あの、痛いです」
「あら、そう?」
すっかり男に見える。

「サラ。悩み事があるんでしょ?」
「え?」
「とぼけても無駄よ。って言うか、顔に出まくり。それじゃぁ銀座では失格ね」
「……」
「なんて顔してんのよ。こんなこと言われたからって素直に反応してどうするのよ。どうせ騙すんなら自分の心も騙しなさい」
「……無理よ」
「無理?じゃぁ、この仕事は辞めることね。中途半端な女はしばいてやりたくなる」
「ママ。男らしい」
「あら。あんたも男だったわね」

ギッと睨んだら、ふんって睨み返された。

「……うくっ」
睨みでは絶対この人に勝てない。
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