銀座のホステスには、秘密がある
「ほら、行くわよ。いつまでもサボってんじゃないわよ」
「アタシ。この店の娘じゃないんだけど」
「いずれそうなるんだからいいの」
「ならない」
「なる!」
あと一歩足を踏み出したら表の世界。
その一瞬手前で足を止めた。
「どうしたの?サラ」
「ねぇ。龍太郎ママ。なんでアタシが女じゃないって分かったの?」
「そんなこと考えてたの?バカねぇ。お仲間だもの分かるわよ」
「じゃ、他の人には分からない?」
「……分かる人には分かるでしょうね」
「そうよね……」
「そんなことぐらいで落ち込んでんじゃないわよ。自分で決めたんでしょ?偽って生きていくっていうのは、それなりの覚悟がいるものよ」
「そうね」
「ただ、私がアドバイスするなら、一度やるって決めたら最後まで気を抜かないってことね」
龍太郎ママが小さな扇子でアタシの肩を叩くと、ピリッとした痛みが走った。それが緩んでた身体に喝を入れたみたい。
「ありがとう。龍太郎ママ。アタシのこと心配してくれたのね」
「心配?ふんっ。冗談じゃないわよ。うちはいつでもお店の女の子が足りないのよ。サラがいなかったら上杉ちゃんとこにもう一人つけなきゃでしょ。早く戻って頂戴」
「……ママ。アタシ、お客」
「そんな小さなこと気にしないの。あなたも私も銀座の女でしょ!」
濃い青紫色の品のある着物の袖口から大きなゴツゴツした手を付き出してる龍太郎ママ。その手で優雅に髪を整えるから違和感がものすごくある。
「分かりました」
そんな大きな手には逆らえないってアタシの本能が叫ぶ。
「あぁ。それからねぇ、サラ」
「うん?」
「騙すんだったら徹底的にやりなさいよ。じゃないと、いろんなとこに迷惑がかかるから。ね。分かるでしょ?」
「うん……まぁ」
「もう。分かってないでしょ?誰に一番迷惑かかるかよく考えてみなさい」
「あかねママ?」
「そうよ。あの人、なんでも考え過ぎちゃうとこあるでしょ。しかもマイナスの方向に。そして自分を責めちゃうの。昔っから生き方が下手なのよね」
「龍太郎ママ、あかねママのことが心配なんだ」
「バカ言ってんじゃないわよ。ただね、なんて言うのかしら、そうね、目障りなの。気が強いくせにすぐに泣いちゃうから、目障りでしょうがないの。だから、サラ……」
龍太郎ママの大きな顔がアタシの視界いっぱいに入り込む。
「あの人に、迷惑かけないでね」
それだけ言うと、龍太郎ママは先に他のテーブルのとこに戻っていった。
「アタシ。この店の娘じゃないんだけど」
「いずれそうなるんだからいいの」
「ならない」
「なる!」
あと一歩足を踏み出したら表の世界。
その一瞬手前で足を止めた。
「どうしたの?サラ」
「ねぇ。龍太郎ママ。なんでアタシが女じゃないって分かったの?」
「そんなこと考えてたの?バカねぇ。お仲間だもの分かるわよ」
「じゃ、他の人には分からない?」
「……分かる人には分かるでしょうね」
「そうよね……」
「そんなことぐらいで落ち込んでんじゃないわよ。自分で決めたんでしょ?偽って生きていくっていうのは、それなりの覚悟がいるものよ」
「そうね」
「ただ、私がアドバイスするなら、一度やるって決めたら最後まで気を抜かないってことね」
龍太郎ママが小さな扇子でアタシの肩を叩くと、ピリッとした痛みが走った。それが緩んでた身体に喝を入れたみたい。
「ありがとう。龍太郎ママ。アタシのこと心配してくれたのね」
「心配?ふんっ。冗談じゃないわよ。うちはいつでもお店の女の子が足りないのよ。サラがいなかったら上杉ちゃんとこにもう一人つけなきゃでしょ。早く戻って頂戴」
「……ママ。アタシ、お客」
「そんな小さなこと気にしないの。あなたも私も銀座の女でしょ!」
濃い青紫色の品のある着物の袖口から大きなゴツゴツした手を付き出してる龍太郎ママ。その手で優雅に髪を整えるから違和感がものすごくある。
「分かりました」
そんな大きな手には逆らえないってアタシの本能が叫ぶ。
「あぁ。それからねぇ、サラ」
「うん?」
「騙すんだったら徹底的にやりなさいよ。じゃないと、いろんなとこに迷惑がかかるから。ね。分かるでしょ?」
「うん……まぁ」
「もう。分かってないでしょ?誰に一番迷惑かかるかよく考えてみなさい」
「あかねママ?」
「そうよ。あの人、なんでも考え過ぎちゃうとこあるでしょ。しかもマイナスの方向に。そして自分を責めちゃうの。昔っから生き方が下手なのよね」
「龍太郎ママ、あかねママのことが心配なんだ」
「バカ言ってんじゃないわよ。ただね、なんて言うのかしら、そうね、目障りなの。気が強いくせにすぐに泣いちゃうから、目障りでしょうがないの。だから、サラ……」
龍太郎ママの大きな顔がアタシの視界いっぱいに入り込む。
「あの人に、迷惑かけないでね」
それだけ言うと、龍太郎ママは先に他のテーブルのとこに戻っていった。