銀座のホステスには、秘密がある
「たっちゃん」

この女、信号を渡らなかったらしい。

「おぉ、結菜」
「えへへ。やっと会えたね」

甘ったるい声で殿に話しかけるこの女は、アタシと話す時と声のトーンが全然違う。
顔が自然にウエってなりそう。

「帰りか?」
「そうなの。だから、結菜、今、一人だよ」

上目づかいで殿を見上げる女。

正気?
殿は今、アタシと手を繋いでるんだよ。

「そうか。気をつけて帰れよ」

殿が繋いでる手を引いて歩き出そうとしたら、
「たっちゃーん。冷たいー。結菜、一人だと、寂しくて泣いちゃう」
殿の行く手に女が回った。

隣りにアタシがいるのに、堂々と殿を誘惑してる。

すごい。
逆にその神経の太さは尊敬してしまう。

そんなに殿のことが好きなんだ。
どうやっても他の女のところに行かせない。って執念みたいなものまで見える。

殿が誘いに乗ったら、どうするんだろう。

家に泊まらせる?
そして二人は身体の関係になる?

途端に、身体中が冷たくなった。


アタシって、邪魔な存在?
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