銀座のホステスには、秘密がある
「いいの。気にしないで。クリスマスはアタシもどうせ仕事だし。今の願いはなかったってことで……」
「悪いな、サラ」
「いいよ。全然気にしてない」

殿に少しでも拒否されると、嫌われるんじゃないかって心配になる。

「クリスマスは、銀座にも来れないと思う。もしか、早く終わったら飲みに出るかもしれないけど、あんまり期待するな」
「うん。分かってる」

最近ほとんど休みがないことも知ってる。
物を買ってもらうよりも、殿と会える時間があるってことの方が贅沢だ。
今日だって一緒にいられるんだから、これ以上の我儘は言っちゃいけない。

「年越したら、余裕あるけどな」
「ゆっくりできる?」
「あぁ、同伴だってしてやれるぞ」
「ほんと?」
「今まで同伴はしたことなかったもんな。ノルマとかあるんだろ?」
「ううん。そんなのはないんだけど。もし、もしね。殿が同伴できるんだったら、例えば1月4日の仕事始めの日って……やっぱり忙しいかな?」

毎年、仕事始めの日はお店が豪華な新年一色になる。
お得意様から贈られた胡蝶蘭や、装飾品が並べられたり。
高級な飲み物もたくさん用意され、おせち料理風のお食事まで出る。
アタシたちも、その日に合わせてドレスを新調したり、一番良い物を着てお店に立ってる。
そんな特別な日。

「あぁ。逆にその頃は一番時間があるかもしれないな。いいぞ。仕事始めの日の同伴」
「ほんと?!」

殿は気軽に約束してくれたけど、これがどんなに嬉しいことかって分かってない。

「殿。仕事始めの日の同伴って言うのはね。その娘の一番の上客って意味があって……」

アタシが一生懸命説明するのに、
「へー」
殿はニヤニヤ笑って、真剣に聞いてくれない。

「もう!殿!」
「ええやん。サラの男は俺だって、宣言できんだろ?そんな格好で行ったる」

ぷふっ

どんな格好よ。
ってアタシが笑えば、
色男風ファッション。
って殿が答えた。

見てみたいけど、殿の色男風ファッション。

楽しい時間はあっという間で、殿と話してたらタクシーはもうアタシんちの前に止まってた。

殿が慣れた足取りでアタシの部屋へと向かう。

玄関の鍵を開けて、中に入った途端

「アキラ」
「んっ」

殿がアタシの唇に優しく触れた。

「たつき……」
「約束忘れるなよ」
「あ…どの…?」
「おまえの願いを一つ聞いたら、俺の頼みも一つ聞くって話」
「…んっ、うん。あ…分か……った」

キスだけで、蕩けそうになる。
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