銀座のホステスには、秘密がある

「お願いします」

その日、仕事が終わったら、すぐにクラブ龍太郎に来た。
アフターじゃなくて、あかねママと二人でお客として。
そしてすぐに龍太郎ママに頭を下げた。

着物を貸してください。

「仕事始めのぉ？お着物着るの？止めた方がいいわよ。慣れてないと苦しいのよ。お酒なんて飲めたもんじゃないわよ」
「大丈夫です。これから特訓します。だから龍太郎ママのお着物のいっち番安いのをアタシに貸してください」
「やだ。安いお着物なんて持ってないわよ」

小さな扇子で口元を隠した龍太郎ママ。
バカにされてる。

「あら、そうでもないんじゃないの？龍太郎が駆け出しの頃に着てたやつがあるでしょ？」

アタシがバカにされたのに、あかねママが反応してる。

「駆け出しの頃から良いものしか着てなかったわよ」
「へー。もう物忘れが激しくなったみたいね」
「なんですって？」
「今着てらっしゃるお着物は、サラにはちょっとねぇ。胴回りがぶかぶかよねー。龍太郎が若い頃のお着物の方がまだサラに合うと思うけど」
「また着るかもしれないじゃない」
「あはは。もう入る訳ないじゃない。本気で言ってるの？」

龍太郎ママが口を真一文字に結んで、言葉を飲みこんでる。

龍太郎ママが口で負けたのを初めて見た。
あかねママすごい。

「しょうがないわね。一枚だけ処分できずに取っておいたのがあるの。それでいい？」
「龍太郎ママー。ありがとう。大切に着る」
「いいわよ。もう、サラに上げるわよ。でも、帯や小物は自分で揃えなさいよ」
「はい。分かりました！」

やった！
お着物が着られる。

殿に着物姿を見てもらえるー

有頂天になっていたのも束の間。

翌日、出勤前に龍太郎ママに誘われて和装のお店に連れて行ってもらったら……