銀座のホステスには、秘密がある
その日は予定になかったのに、殿が来店してくれた。
しかも閉店間際に一人で。
「いらっしゃいませ」
「やっと来れたよ」
そう言って笑う殿に、さっきまで不安に思ってたことが消えていく。
入口で殿のコートを預かりながら、早口で聞いてしまう。
「今日はゆっくりできるの?」
「あぁ。サラんちでな」
アタシの耳元で、アタシにだけ聞こえる声で殿が教えてくれるから、ドキドキしてしまう。
「もう殿ったら」
照れ隠しに顔を隠すと、その腕を引かれて、
「やっと少し太ったか?」
アタシの身体を眺めてる。
「殿の頼みってアタシが太ること?」
「そんなわけないやろ」
「じゃ、何?」
「おまえの望みを叶えてからな」
未だに、殿の頼みっていうのを教えてもらってない。
「あのね、殿。アタシ、仕事始めの時はお着物着ることにしたの」
「へー」
「へー。って、楽しみじゃない?簪(かんざし)もあるんだよ」
「お、それはいいなぁ。簪かぁ。なら俺が櫛(くし)を贈ってやろうか」
「ほんと?」
「ここに刺せよ」
そう言うと殿がアタシの頭をポンと触った。
「うん。ありがとう」
やっぱり着付けも髪のアップもケンジさんに相談しようと決めた。
「では、上杉様。カウンターでよろしいですか?」
後ろから待ち構えていたようにゴンちゃんが話しかける。
「あぁ。いいよ」
「こちらへどうぞ。申し訳ございませんがサラはもう少し他のテーブルについてまして……」
殿とゴンちゃんがカウンターへと歩いて行った。
本当はそっちへ行きたいけど、今は仕事中。
アタシは元居たテーブルへと戻った。
龍太郎ママに言われたことにならないように、
殿と付き合ったからって指名の数が減らないように、
アタシは努力するしかないんだ。
しかも閉店間際に一人で。
「いらっしゃいませ」
「やっと来れたよ」
そう言って笑う殿に、さっきまで不安に思ってたことが消えていく。
入口で殿のコートを預かりながら、早口で聞いてしまう。
「今日はゆっくりできるの?」
「あぁ。サラんちでな」
アタシの耳元で、アタシにだけ聞こえる声で殿が教えてくれるから、ドキドキしてしまう。
「もう殿ったら」
照れ隠しに顔を隠すと、その腕を引かれて、
「やっと少し太ったか?」
アタシの身体を眺めてる。
「殿の頼みってアタシが太ること?」
「そんなわけないやろ」
「じゃ、何?」
「おまえの望みを叶えてからな」
未だに、殿の頼みっていうのを教えてもらってない。
「あのね、殿。アタシ、仕事始めの時はお着物着ることにしたの」
「へー」
「へー。って、楽しみじゃない?簪(かんざし)もあるんだよ」
「お、それはいいなぁ。簪かぁ。なら俺が櫛(くし)を贈ってやろうか」
「ほんと?」
「ここに刺せよ」
そう言うと殿がアタシの頭をポンと触った。
「うん。ありがとう」
やっぱり着付けも髪のアップもケンジさんに相談しようと決めた。
「では、上杉様。カウンターでよろしいですか?」
後ろから待ち構えていたようにゴンちゃんが話しかける。
「あぁ。いいよ」
「こちらへどうぞ。申し訳ございませんがサラはもう少し他のテーブルについてまして……」
殿とゴンちゃんがカウンターへと歩いて行った。
本当はそっちへ行きたいけど、今は仕事中。
アタシは元居たテーブルへと戻った。
龍太郎ママに言われたことにならないように、
殿と付き合ったからって指名の数が減らないように、
アタシは努力するしかないんだ。