銀座のホステスには、秘密がある
「いかがですか?」

ケンジさんの代わりにやってくれた人は、悪くはないんだけど、正統派っていうか、強気って言うか、ケンジさんが毎回どこかに入れ込む儚さみたいなものがなくて、改めてケンジさんって凄いんだなって思った。

「うん。ありがとう」
「お気をつけて」

今日のドレスは薄い紫をベースにシルバーで花の模様が描いてある。
なんだかヘアスタイルと合ってない。

「お店に行ってから、樹里に手直ししてもらおう」

そんな呑気なことを考えながら、銀座の街を歩き始めた。

暗くなりかけの銀座は物悲しささえ感じる。
昼と夜の間。
じきに暗くなると逆にネオンが煌びやかに輝きだし、また華やかな街になる。

カツリ。
アタシのヒールの音も寂しげに聞こえてくる。

今日は殿は来れないだろう。
一人であの部屋に帰るのが寂しいって思うようになってしまった。
前はそれが当たり前だったのに。次はいつ来てくれるんだろうってそんなことばかり考えてる。


「……きら」

ん?

名前を呼ばれた気がした。

殿?

でも今の声の高さは殿じゃない。
殿の声はもっと低い。

辺りを見回したけど、やっぱり殿はいない。

アタシが殿の事をずっと考えてたから、幻聴が聞こえてきたのかもしれない。
どんだけ殿の事が好きなんだアタシ。と、苦笑いして再び歩き始めた。


「あきら」

幻聴じゃない。
はっきり聞こえた。
誰?

立ち止まり辺りを見渡すと、斜め後ろにアタシをジッと見てる男の人がいる。

「晶だろ?」

「みつ……」

そこに立っていたのは、かつての親友、充伸だった。
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