銀座のホステスには、秘密がある
カツリ。

なんでもなかったような感じで背を向けて歩きだす。
気が付かなかったような、人違いですみたいなオーラで。

なんでこんなとこに充伸がいるの?
しかもアタシが晶だって気付いてるみたいだし……

「晶。待てよ」

そっとしておいてほしいのに、充伸が追ってくる。

「晶!」
「人違いです」
「おまえさっき俺の名前言いかけただろ?」
「……勘違いです」

早足で歩くアタシに充伸がしっかりついてくる。

なんなの?
高校の頃はアタシを無視したくせに。
今更、何の用があるって言うの?

「待てって、晶」
「その名前で呼ばないで!」

うっかり足を止めてしまった。

「あ・・・そうだよな。悪かった」

怒られてすぐに下を向く癖が変わってない。
まぎれもなく充伸だ。
そんなとこが昔から憎めない奴だった。

「何?」
「俺、おまえに会いたくてさ。ネットで調べてもクラブ モンテーラなんてないから、もう突撃するしかないって思ったんだよ。だけど、銀座って広いんだな。昨日も探したんだけど、モンテーラは見つけられなくて、今日なかったら諦めようかと思ってたんだ。そしたらおまえが歩いてきたから、そうかなぁ。違うかなぁってしばらく悩んだんだけど、やっぱ晶だって思って……あ、ごめん。名前言っちゃいけなかったな」

待て待て待て。

一気に話すのも充伸の癖だけど、なんて言った?
ツッコミ処がありすぎてどっから聞いていいのか分かんない。

「モンテーラ?」
「おまえが働いてる店の名前だろ?」
「違うけど」
「違うのか?道理で見つからない訳だよな。なんてとこなんだよ」
「待て。その前になんで銀座で働いてるって思ったの?」
「あー。おまえの姉ちゃんが教えてくれたんだよ。近所にデカいモールができてさ。俺らよくそこに行ってんだけど、そしたらおまえの姉ちゃんを見かけて、声かけたら話が盛り上がってよ……」

姉ちゃん!

誰にも言わないとか言ってたのに、約束までしたのに、充伸にぺらぺらしゃべってんじゃねーか。
しかも、お店の名前、間違ってるし。
あの感動の再会はなんだったんだよ。

「だからさ。俺、晶に会って言いたいことがあったんだよ」

ダメだ、こいつ。銀座のど真ん中でアタシの本名をデカい声で呼びやがる。

「営業妨害だよ」
「は?なんつった?」
「おまえっ、声がでけーんだよ。名前は呼ぶなっつってんだろ」
「あぁ。わりぃ。つい嬉しくて。俺ずっと、あき……おまえを探してたんだぜ」

知るかよ。

そう思うのに、心のどこかで嬉しく思う自分もいて。

「喫茶店でいい?少し歩くけど」
「あぁ。悪いな」

一番、誰も来なさそうな喫茶店を頭の中で探してしまった。
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