銀座のホステスには、秘密がある
銀座の外れの地下にある昔ながらの喫茶店を思いついた。
レトロなカフェなんて感じじゃなくて、サラリーマンの昼寝場所。
もっと言うなら昭和な感じの喫茶店。
ここなら銀座の女は来ないだろうと思ったから。

ヒールの音を響かせながら、地下へと向かう小さくて狭い階段を下りるアタシの後ろを、充伸がついてくる。

一応、店内を見渡して知ってる人が誰もいないことを確認してから、一番奥まったボックス席に充伸と向かい合って座った。

「悪いな。おまえこれから仕事だったんだろ?」
「うん。早めに終わらせてくれたら助かる」
「そうだよな……悪い」

充伸だ。
目の前に充伸がいる。

少し老けた?

高校の頃のこいつしか知らないから、急に成長した充伸が別人にも思える。

「……」
「……」

何を言っていいのか分からないまま、微妙な空気で時間だけが過ぎていく。
それは、充伸も同じようで……

何しに来たのよ!会いに来たんだったら、そっちから何か言うべきでしょ!
でも、こういう時、充伸は気が小さいから、口火を切れる性格じゃない。

「充伸。ファンキーナイトスクールって覚えてる?」
とりあえず思いついたことから口にしてみた。これは最近、充伸に話したいって思ったから。

「へ?なに?」
「ファンキーナイトスクールだよ。深夜ラジオの。高校生の頃、よく聞いてたでしょ?」
「あ、あぁ。覚えてるよ。俺、いまだに時々聞いてる」
「まっつん教頭のこと覚えてる?」
「あぁ。今はまっつん校長だけどな」

本当に聞いてるんだ。

「まっつん校長に会った」
「えぇ?!マジか?なんで?すげーな」
「一回、店にも来てくれた」
「え?まっつん校長、おまえの客?晶、おまえすげーな」

充伸の驚いた顔が目の前にある。太い眉毛が大きく上に引っ張られるこの顔、あの頃と変わってない。

「俺も晶の店に行ったら、まっつん校長に会えんのかな?」
「うちの店に入るつもりだったの?おまえ、そんなに稼いでんの?」
「……そんなに高いのか?」
「知らずに来るつもりだったなんて、怖い物知らずだな」
「俺もそこそこは稼いでるから、なんとかなるかなって……」
「一晩で10万捨てれるの?」
「えっ?!じゅ、10万?!」

そんなにしないけどね。

「晶。すごいとこで働いてんだな。てか……おまえ、綺麗になったよな」

ドキリとした。
充伸の口からそんなこと言われるなんて思ってもみなかった。
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