銀座のホステスには、秘密がある
「嘘つくなよ」
「嘘じゃねーよ」
「じゃ、なんで今、そんな格好してんだよ」

ハッとして自分の姿を改めて見てみた。
今日は薄い紫で、シルバーの花模様のドレス。

アタシ、自分が一瞬サラである事を忘れてた。

「これは……」

上手い言い訳なんかすぐには思いつかない。

「おまえ、昔からそうやって俺のこと庇ってくれたよな」

そういうんじゃない。
ただ充伸には笑っていてほしかっただけだ。
結局は自分の為。

「晶……」

なんだよ。そんな切なそうな目で見るなよ。

「晶だって分かってんのに、おまえなんでそんなに綺麗なの?いい匂いだってするし。やべー俺、すげードキドキする」
「バカだろ。おまえ」
「あぁ。そのツッコミ。晶だぁ」

充伸は目を閉じて喜んでる。
マゾか。

しばらく喫茶店のクラシックの音楽を聞いていた。
充伸は数秒上を見ていて少し落ち着いたのか、胸ポケットからタバコを取り出した。
「いいか?」
「あぁ」
おまえも吸うようになったんだな。ってぼんやり考えてたら、うっかりバッグから細身のライターを取り出して充伸の前に出してしまっていた。

「……」
「……あ。つい……」

職業病ってやつか。条件反射って怖い。
慌てて引こうとした手を、充伸が掴んだ。

「っ……」

充伸の瞳がジッとこっちを見てて、引き込まれそうになる。

「悪いな」

手首を持ったまま細身のライターから、充伸が火を取った。
自分の高鳴る心臓が信じられない。
充伸に握られた手が、熱い。

会いに来てくれたのがもう少し早かったなら、俺は……


「晶」
「なんだよ」
「俺……結婚する」

え?
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