銀座のホステスには、秘密がある
「相手は?」
「横山の妹」
「横山?あぁ、あの横山の」
「やっぱ覚えてんだな」
「覚えてるさ。3年間同じクラスだったんだから」
「おまえ。人の名前とか顔とか覚えんのが下手だっただろ。興味ない奴はクラス一緒でも覚えてなかっただろ?」

「まぁ、そうだな」
女の名前は覚えてない。

「やっぱり横山だけは覚えてんだな」
「……ん?」
なんだ、その言い方。

「いつも柔道の時、横山と組んでたもんな。俺がどんな想いで見てたかおまえ、知らねーだろ」

は?
待て待て。

「そもそも柔道の時は、身長での並び順だろうが。俺と横山は低い方だったから……」
「俺はっ。おまえと組みたかったんだ」
「何言ってんだよ。充伸だって門脇といっつも組んでたじゃねーか」
「あんなむさっ苦しい奴となんて組みたくなかったんだよ」
「は?楽しそうにやってたじゃねーか。今頃何言ってんだよ」
「俺は、門脇じゃなくて、晶と組みたかったんだよ!なのにおまえは横山といっつも楽しそうにじゃれあっててよ。寝技の稽古ばっかしてんじゃねーよ」
「してねーよ」
「ストレッチの時だって、おまえ横山と組みたがったよな?俺が隣にいても毎回シカトだよ」
「おまえと俺とじゃ背の高さが合わねーだろ」
「関係ねーよ。なんで横山だったんだよ。なんで俺じゃなかったんだよ」
「じゃ、なんで言わねーんだよ」

気が付けば、はぁはぁと肩で息をしてた。

「妬いてんじゃねーよ」
充伸があの頃、俺のことを想っててくれてたなんて信じられなかった。
心が震えるくらい嬉しいけど、結婚するこいつに素直にそうとは言えない。

「妬かせてんじゃねーよ」
ニヤリと充伸が笑う。
その顔に俺もまた微笑み返した。

あの頃はがむしゃらで、今よりもっと純粋だった。
かなり昔のことなのに、いまだにこんなに熱くなれるなんて……

充伸に惚れて良かったとすら思えてくる。

「俺ら。バカだったな」
「今も、変わってねーだろ」

そうだな。
今も変わってない。
< 139 / 222 >

この作品をシェア

pagetop