銀座のホステスには、秘密がある
「充伸。会いに来てくれてありがとう」

狭い階段を上がって地上に出ると、ネオンが煌めき始めていた。

少しの間、高校生の頃に戻ったような錯覚に陥ったけど、ここは銀座。
アタシの街。

「晶。友人代表やってくれよ」
「誘ってくれたのは嬉しいけど、遠慮しておくよ」
「なんでだよ」

充伸が腕を掴みそうになるからやんわりとかわして、足にまとわりついてたドレスを直した。

「もう、晶じゃないんだ。・・・サラ。クラブ モンテカルロのサラだ」

もう、あの頃には戻れないし、戻りたいとも思わない。
充伸は大事な親友だけど、今は、もっと大事な人がいる。

「その格好で出席してくれてもいいけど」
「うふふ。昔の女を結婚式に呼ぶバカがどこにいんだよ」
「おまえは昔の女じゃねーだろ」
「そうかしら?」

得意の流し目と、最高に綺麗に見える角度で誘惑すると、充伸は「うっ」って言ったきり何も言わなくなった。

「本当に会いに来てくれてありがとう」

ただ辛いだけだった思い出が、今は時々思いだしたくなるくらいにまで良い思い出に変えてくれた充伸に感謝してる。

「晶。俺、いつかおまえの店に行くから。10万貯めて。ゼッテー行くから」
「うん。待ってる」

最後まで手を振る充伸を、微笑んで見つめていた。

無事に帰れんだろうかって心配だけど、アタシはこの後仕事があるから送っていけない。
「気をつけて!」
もう聞こえるかどうか分からないけど、せめてそれくらいは言ってやろう。

充伸が人に紛れ見えなくなった。

さぁ。アタシも仕事に行こう。と、足を一歩踏み出した時。

「こ・ん・ば・ん・わ」

背後から甘ったるい声が聞えてきた。
< 140 / 222 >

この作品をシェア

pagetop