銀座のホステスには、秘密がある
「何のことを言ってるの?アタシ急いでるからいいかしら?」

動揺を隠せたと思う。
ここは逃げるが勝ちとばかりに、さっと歩き出した。
下手にこの女と対峙したら、今のアタシは勝つ自信がない。

「いいんですか?言っちゃいますよ。アキラさん」

カッ。
アタシのヒールの音がイヤな音を立てて止まる。

アタシの本名・…・・

この女、どこまで知ってるの?

「そうですよ。素直に結菜の言うこと聞いてくださいね。じゃないと、たっちゃんにも言いますよ」

女の声が近付いてくる。

「たっちゃん。上杉プロデューサーのことですよ。分かってますよね?結菜からたっちゃんを取った気でいたんでしょう?でも、たっちゃんは結菜のだから、絶対に手を出さないでくださいね」

女がアタシの隣りで止まった。

沸々と怒りが湧いてくる。
殿は誰のでもないし、この女から取ったつもりもない。
「アタシは、手を出した覚えなんかない」

ただ殿を好きになっただけだ。

「へー。まだそういうこと言うんだ。じゃ、見せちゃおっかな」

女が大きなバッグからスマホを取り出した。

イヤな予感がする。
それだけはあってほしくないって願った。

なのに、

「最初は浮気現場だと思ってぇ。証拠写真を見せたら、たっちゃんだって結菜のとこに戻って来てくれると思ったんです。だから気付かれないようについて行ったら……」

得意気にスマホを操作してた指が止まった。
お目当ての物が見つかったんだろう。アタシの目を見て、女がニヤリと笑う。

「良いとこが撮れました。これ最高」

笑いながら女がスマホの画面をこっちに向けた。

そこに映ってたのは、さっきの喫茶店に座るアタシと充伸。
話に夢中になってるのが見てて分かる。

「あ。音小さかった」

女がスマホのボリュームを上げると、

『ストレッチの時だって、おまえ横山と組みたがったよな?俺が隣にいても毎回シカトだよ』
『おまえと俺とじゃ背の高さが合わねーだろ』

充伸とアタシの男声……

『関係ねーよ。なんで横山だったんだよ。なんで俺じゃなかったんだよ』
『じゃ、なんで言わねーんだよ』

「あ……」
一瞬、目の前が真っ暗になった。

聞かれてたんだ。
一番聞かれたくない相手に、それも充伸との仲が戻った瞬間の場面を。

「サラさん。男だったんですね」

ガクンと膝の力が抜けた。
< 142 / 222 >

この作品をシェア

pagetop