銀座のホステスには、秘密がある
あれだけ用心しなきゃって思ってたのに、どこから知られるか分からないから、いろんな物を我慢してたのに、まさか、こんな形で知られてしまうとは思わなかった。

充伸と会って、気が緩んでたのかもしれない。

銀座の外れとは言っても、この時間誰にも合わない訳なかったんだ。

いくら後悔しても、もう遅い。
アタシはこの女に弱みを握られてしまった。

「あはは……ウケる。こんなとこで座り込まないでよ」

頭上から高笑いが聞えるけど、アスファルトから手の平が離れない。

なんて無様なんだろう。

アタシはサラなのに。
銀座の老舗、モンテカルロのNO,1なのに……

唇を噛みしめて、全身の力を込めて立ち上がった。

こんなんじゃいけない。
これまでアタシを支えて来てくれたお客様に、こんな姿見せられない。

ドレスの汚れを払うと、少し落ち着いてきた……ような気がする。

「大丈夫?そんなにショックだったぁ?」
あはは……と、更にバカにしたように笑う女。
悔しくてしょうがないけど、奥歯を噛んでこらえた。

もう今更、男じゃないって否定しても、無理だろう。

じゃ、どうすればいい……

「いくら?いくら欲しいの?」

全身から火を吹けるくらいの憎悪を感じてるけど、黙っててもらわなきゃいけない。
果たして、それでこの女を信じてていいのかとは思うけど……

「お金か……考えてなかった」

女は唇に人差し指を当てて、考え込むように宙を見た。
「じゃ。取り敢えず100万で」

「取り敢えずって何?何度もたかる気でいるの?それはゆすりよ。立派な犯罪行為よ。何度もたかる気だったら警察行くわよ」

アタシの怒りも頂点を超えた気がする。

「冗談よ。そんな気ないもん。でも、たっちゃんとは別れて」

え……

「聞こえなかったの?上杉プロデューサーとはこれから一言も口きかないで」
「それは……お客様だから……そういう訳には……」

鼓動が早くて耳まで痛い。
殿と別れる?

そんなの無理に決まってる。

「たっちゃんから嫌われてよ。もう二度と会いたくないって言われるくらい。じゃなきゃ、たっちゃんにも言うよ。あんたが男だって」

「それだけは、ヤメて!」

胸が痛い。
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