銀座のホステスには、秘密がある
「……分かった」

そう、答えるしかなかった。

「今すぐよ。たっちゃんが今日から結菜のところに来るようにして。じゃないとあの動画、たっちゃんに見せるからね」

「……」
声が出ないから、力なく肯いた。

「たっちゃんだけじゃないから、あんたのお客さんみんなに見せるからね」

「それは、ヤメテ……」

お客様も騙してたって、裏切り者になってしまう。

「最高。あんたのそんな姿見れるなんて思ってなかった。いっつもみんなの中心にいて、銀座の女王って顔してたのに。これからは結菜が女王になってあげる」

あはは…



高笑いが耳から離れない。

気が付けば結菜はもういなかった。
銀座の街が眩しく光っている。

アタシはスマホを取り出して、殿にメールを打った。

『他に好きな方が出来たので、もう、貴方とは会えません。
仕事始めもその方と同伴します。ごめんなさい』

「仕事始め……」

着物も和装の用品も、殿のために揃えた。
殿に褒めてもらえたら、それで良かった。

書いては消し、また書いては取り消してメールを作った。

こんなメール本当は送りたくなんてない。

ギュッと目を閉じて送信のところに触れた。

目を開けた時には、『送信完了しました』の文字。

「ぅあーっ!!」

アタシの大声に近くにいた人がこっちを見るけど、そんなの関係ない。
スマホを投げつけようと腕を高く持ち上げた。

でも、この中には、常連さんのデータがある。
消えたら、仕事ができなくなる。

もう一人のアタシが冷静に言う。


アタシはスマホを投げ捨てることができなかった。

どこまでもアタシは自分に甘いらしい。
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