銀座のホステスには、秘密がある
どこに行くでもなく銀座の街を歩いていた。

もう殿はあのメールを見ただろうか。

考えるのはそのことばかり。

立ち止まったとこは小さな噴水の前。水の流れををじっと眺めていた。
ここは見覚えがある。
不思議な物で、気が付くとモンテカルロが入ってるビルに帰りついていた。

「サラ?サラじゃない?」

誰かがアタシを呼んでる。
でも、アタシの本当の名前はサラじゃない。
アタシの本当の名前は……

「サラ!どうしたの?あんたが無断で休むなんて。何かあったの?その格好。出勤するつもりだったんでしょ?」

アタシの肩に触れる手が温かい。

「樹里……」

「な…バカ。なんて顔してんのよ。とにかく上に上がって」

樹里がアタシの手を引いて裏口に連れて行く。
小さなエレベーターに押し込まれて、着いたのはモンテカルロのメイクルーム兼休憩室。

アタシ、今日は出勤だったのに……
出勤時刻はとうに過ぎている。

「サラ。こっち」

樹里に連れてこられたのは一番奥にある更衣室。
メイクルームの奥に簡単にカーテンで仕切ってある部屋。

「この部屋には入れないの」
「何言ってんのよ。今は誰も来ないから、ここでメイク落としなさい」
「メイクはちゃんとケンジさんのとこでしてきたから」
「そのメイクが取れかけてんのよ。よくその顔で表を歩いてきたわね。誰にも会わなかった?」
「……どういう意味?」
「……男に戻りかけてるわよ」

樹里の言葉に唖然とした。

見開いた目をそのままに樹里を見ると、樹里はアタシから視線を逸らして、「何年一緒にいると思ってんのよ」小さな声でそう言った。
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