銀座のホステスには、秘密がある
いつもよりかなり早い時間だけど、ケンジさんのお店を出た。
慣れない着物姿は歩きにくい。でも、周りからの視線をいつも以上に感じる。

ショーウインドウに写るアタシは、一部の隙も見当たらないくらい美しく着飾っていた。
本当は殿のために揃えた今日のこの衣装。
着物姿で、長時間過ごす練習までしてた。
だけど、現実は殿に見せることもなく、今日のイベントは終わるんだろう。

今日の同伴の待ち合わせの時間までまだある。
せめてこの姿を残しておきたいと向かった先は、フォトスタジオ。

「どんなポーズがよろしいですか?」
「お任せします」
「では、立ち姿と座ったお姿ではいかがですか?」

アタシと同じくらいの歳の女の人が、アタシにポーズの指示を出す。
重そうなカメラを覗いて、一生懸命にアタシが一番綺麗に見える角度を探してくれてる。

その真っ直ぐな瞳に羨ましいと感じた。

この人はアタシみたいに、弱みを握られて仕事を続けられないなんて事態に陥らないんだろう、なんて勝手に想像して、思いっきり仕事をできる状況が羨ましかった。

「笑ってください」

笑ってるよ。これでも。

「もっと良い笑顔で……せっかくですから輝いてる姿を撮りましょう」
「……今は輝いてませんか?」
「すみません。寂しそうに見えたので」
「……」

間違ってない。

写真には嘘はつけないってことなんだ。

「このまま写してください。これが今のアタシなんで……」
「分かりました」

アタシの覚悟が伝わったのか、さっきまで過度な笑顔だったカメラマンの女の人は、今は優しい表情に変わった。

出来上がりは数日後。

もし写りが良かったら、樹里が始めたブログに載せてもらってもいいかもしれない。
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