銀座のホステスには、秘密がある
フォトスタジオを出てゆっくり待ち合わせの場所へと足を向けた。
来慣れてない場所だから早めに移動したけど、基本の10分前行動どころか、今日ばかりは30分前行動って言ってもいいくらい早くに着きそう。

どうやって時間をつぶそうか。
喫茶店にでも入って……

待ち合わせ場所へと向かう道で、ふと角の小さなお店に目をやると、そこに立っている男の人に気が付いた。

ここも銀座の女たちがよく待ち合わせ場所に使うところ、普通に数人がいつも立っているけど……

でも、アタシには分かった。

その立ち方、マフラーの巻き方、焦げ茶色のダウン、間違いない、殿だ。

この場にいちゃいけないって思うのに、足が動かない。

久しぶりに見た愛しい人の姿に、自分を忘れるくらい見入ってしまった。

殿は誰と待合わせしてるんだろうか。
まさかこれから誰かと同伴とか。
アタシと約束してたのにすぐに他の人から誘われる辺り、さすがだとしか言いようがない。

アタシがジッと見てたからだろうか、殿がゆっくりと顔を上げてしまった。

キョロキョロと周りを見渡して、誰かを探しているそぶり。やっぱり待ち合わせだ。

その視線がスッとアタシの方に向いた。
一瞬だった。

殿の、動きが止まった。

「あ……」

殿がアタシを見てる。

殿と視線が絡み合っている。
どれくらいぶりになるんだろう。
そんなに大した時間経っていなくても、アタシにはもう数年が経過してるくらい久しぶりに感じる。

喉に熱いものがこみ上げてくる。

いけない。
もう会わないって決めたんだった。

もう少し見ていたかったけど、サッと視線を外して背を向けた。
足がもつれそうになるけど、なんとか近くのビルの間に入って、早鐘を打つ心臓を落ち着かせようとした。

「はぁ……っはぁ……」

呼吸も乱れてる。
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