銀座のホステスには、秘密がある
久しぶりに見た殿の姿。

会いたくてたまらなかった。
何度も何度もその姿を思い出してた。

一瞬の出来事だったけど、今日殿に会えたことはアタシにとってご褒美。

くりくりした愛しい瞳がいっぱいに開かれて捉えていたのはアタシの姿。
殿はアタシのことをまだ忘れてはいなかった。

そんなことですら嬉しい。

胸元を押さえた手が着物の合わせに触れる。
自分が今日は着物を着てたことを思いだした。

殿にこの姿を見てもらえたんだ。

殿は覚えているだろうか。
アタシが着物を着ると言ってたのを。

殿の目に着物姿のアタシはどう映ったんだろう。


ビルの谷間でしばらく動けなかった。
たったそれだけのことにこみ上げる温かい想いをジッと味わっていた。

戻ろうかと顔を少しだけ通りに向けた時、一組の男女が仲良さそうに目の前を通り過ぎた。

焦げ茶色のダウン。

殿。

殿は、女の人と腕を組んで歩いていた。

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