銀座のホステスには、秘密がある
「おはようございます」

アタシがお店に戻った時には、もうみんな来ていて、お店の営業も始まっていた。

「サラ」
「樹里」

真紅のお着物をクールに着こなしている樹里が、アタシを待っている。

「あけましておめでとうございます。今年もよろしく」
「こちらこそよろしく」

お互いを値踏みするように上から下まで眺め倒す。
樹里はその目に余裕の色が見える。

「素敵ね。龍太郎ママのお着物」
「これはもうアタシのなの。樹里こそ似合ってるあかねママのお着物」

一瞬目を細めた樹里。
口喧嘩なら負けないわよ。

これはもうアタシたちのご挨拶みたいなもの。
こんなこと言えるのは樹里にだけ。

「着物姿はあたしの勝ちね」
「そうかしら?」
「サラのはフロアに出たら黒に見えると思う」
「く……」

これには反論できなかった。

深い深い藍色。
明るいところなら濃紺だと分かるけど、暗い照明の店内ではそれは分からないだろう。

逃げるようにフロアに出ようとしたら、戸塚君がメイクルームに顔を出した。

「あ、サラさん。ちょうど良かった。これ、今届きました」
戸塚君に渡されたのは有名デパートの包装紙でくるまれた小さな箱。

「ありがとう。誰から?」
「それが…名前もなくて、デパートの人もすぐに帰ってしまって……」

箱をひっくり返したりして、どこかにカードとか入ってないか見るけど、何もなかった。
それに気付いた樹里が、
「今度からは誰からの贈り物かちゃんとお名前聞いてね」
戸塚君を注意してる。

「なんだろう」
包装紙を開くと、和紙でできた箱、その中にはまた桐の箱が入っている。
桐の箱には小さく刻印が押してあって、
「すごい」
見るからに高級そうな物が入ってそう。

「なんだった?」
樹里も横から覗いてる。

そっと桐の箱の蓋を持ち上げる。

絹の布で大事そうに包まれていたのは、

櫛(くし)だった。
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