銀座のホステスには、秘密がある
赤い漆塗りの櫛に、小さな白い蝶が2羽、はかなげに螺鈿で細工されている。

「可愛い」
隣りで覗いていた樹里が声を上げる。

櫛を持つ手が震える。

アタシは身長が大きく目鼻立ちもしっかりしてるから、割と綺麗系の物を送られることが多い。
洋服を選びに行っても、白や青やハッキリした色や、クールな印象の物を勧められることが多いから、他の人から見たアタシの印象はそっち系なんだろうと諦めていた。

でも、本当はピンクが好き。
リボンやレースがついてる可愛い物が好き。
だけどそんな可愛い物はアタシには似合わないって諦めていた。

ただ、部屋の中だけはそんな大好きな小物たちでいっぱいにしてる。
アタシの隠してる本心。


この櫛が、誰から贈られた物か分かってしまった。

「…殿……」

きっとさっき目が合った時に気付かれてしまったんだ。
アタシが櫛をつけてないことに……

たった一瞬だったのに、そんなことまで気にして……
隣りには可愛い女の子を連れてたのに……

「サラ?」

涙が止まらない。

樹里の心配そうな声に泣いちゃいけないって思うのに、涙が止まってくれない。

「誰から贈られたか分かったのね。もしかして上杉様?」

次から次へと流れ落ちる涙を抑える手も震えている。

アタシはただ肯くことでしか樹里に想いを伝えられない。

「サラ……そんなに上杉様のこと好きだったの……」

樹里はアタシから顔を逸らした。
もしかしたら樹里も一緒に泣いてくれてるのかもしれない。

「そろそろ……」

呼びに来たゴンちゃんがアタシたちの方を見て驚いている。

「サラさん?」

他の女の子もいるのに……

泣いちゃいけないって分かってるのに……

時間かけたメイクだって落ちるって分かってるのに……

「……殿……」

涙が止まらない
< 163 / 222 >

この作品をシェア

pagetop