銀座のホステスには、秘密がある
赤いカーテンの一歩手前で、頭に乗せた櫛に触れる。

ありがとう、殿。

一つ深呼吸をして、胸を張る。
スッと伸ばした手でカーテンを開けると、一歩を踏み出した。

煌びやかな世界を初めてお着物を着て歩く。
まるでスポットライトでも当たってるような気持ちで、通路を歩いた。

その時ふと気が付いた。

アタシのお着物が光を浴びて内側から光っているように見える。

深い深い藍色の着物に光が反射して、足元から胸元まで登り上がるように刺繍してある白いユリの花も立体的に見える。

綺麗。

アタシも思ったけど、お店にいた人たちもそれに気付いたみたいで、数人の人がアタシを見ている。
光り輝く衣装で微笑を浮かべて、流し目で答えながら歩くと、お客様ばかりか女の子たちもアタシを見てた。

まるで舞台。もしくはランウェイのよう。

「くーさん」
「……」
「お待たせいたしました」
「あ、あぁ。見惚れてしまったよ」
「うふふ。乾杯しましょ」

袖を払ってシャンパングラスに手を伸ばすと、くーさんがその手をやんわりと引かせる。

「サラ。今日は最高の夜にしよう」
くーさんはアタシにそう言うと、先についててくれた愛ちゃんに、
「愛。ドンペリを頼んでくれ」
「まぁ、素敵。ありがとうございます」

うちで一番高い、ドンペリニヨンのシャンパンをオーダーしてくれた。


もう迷わない。

これがアタシの仕事。

銀座の老舗クラブ、モンテカルロのNO.1ホステス。
アタシはサラなんだから。
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