銀座のホステスには、秘密がある
「龍太郎ママがね、男を辞めたのはそんな自分が嫌いだったからなんだって」

キャリーちゃんがアタシたちだけに教えてくれた。

「ねぇ、キャリーちゃん。さっきから出てくるあの女って・・・矢部ゆかり?」
ゴンちゃんが思い切って聞いている。

「そうよ。龍太郎ママったら矢部ゆかりと寝ちゃったんだって」
やん。恥ずかしい。って言いながら、キャリーちゃんはゴンちゃんにすり寄っている。

「龍太郎ママ。本当なの?」
アタシが聞くと、龍太郎ママは着物の襟を整えながら、
「昔のことよ」
そう答えた。

ってことは、認めたってこと。
矢部ゆかりはライバルだったあかねママの、その当時付き合ってた男の龍太郎ママに手を出したってこと?

「だから、あの女は計算高いのよ。サラ。上杉様は利用されてるのよ」

あかねママが真っ直ぐアタシを見てる。
でも、アタシにはもうどうすることもできないのに……

龍太郎ママがアタシの方を向き直り、小さい扇子を持ち直した。
「サラ。ゆかりの旦那の鈴木さんはね、自分は浮気するくせに、嫉妬深いの。たぶん上杉ちゃんは仕事していくの厳しくなるんじゃないかしら。鈴木さんってその世界での影響力は大きいのよ」
「あの女は嫉妬されるのが嬉しいみたいね。愛されてると勘違いするんでしょうね」
あかねママが口を出す。

「あんたはちょっと黙ってて」
女に戻った龍太郎ママがあかねママを制した。

「上杉ちゃん。消息不明なんだって」

え?

トクンとアタシの中に波が起きた。

「浮気したのかしてないのかなんて問題じゃないの。矢部ゆかりが手を出されたって言った時点でおしまいなのよ。上杉ちゃん、もうあの世界にはいられないんだと思う」


殿……


考えるよりも先に立ち上がっていた。

「アタシ……お先に失礼します」

「頑張んなさいね」
「何か分かったら連絡するから」
龍太郎ママとあかねママが言う。

「サラ」
樹里がコートを掛けてくれる。

「気をつけて」
ゴンちゃんまでもがバッグを取ってくれてみんなが見送ってくれてる。

「ありがとう」
胸がいっぱいでつぶやくようにお礼を言った後、走るようにエレベーターに行く。

エレベーターホールの前には、
「やっぱり好きなんじゃん」
ピンク色のキャリーちゃんがいた。

「……悪い?」
「今頃遅いのよ」
「別に、殿を探しに行くだけだから」
「ふん。強がっちゃって」

エレベーターの扉を挟んで会話してた。

「絶対。見つけなさいよ」

キャリーちゃんが本気の目をして言うから、

「うん」

アタシも本心が出てしまう。
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