銀座のホステスには、秘密がある
「なんなの?」
お手洗いのドアを開けた瞬間豹変した結菜が待っていた。

「聞きたいことがあって」
「はぁ?」
「上杉様のことなんだけど……」

アタシがその名前を出したら、眉をしかめてイヤそうな顔をした結菜。

「結菜に聞いたって知らないわよ。もうあの人とは連絡も取ってないんだから」
「何言ってるのよ。アタシに別れてって言ったクセに知らないってどういうことよ」
お腹の底に黒い物が湧いてくる。

「こっちだって迷惑してんのよ。あの人をメインにしてNO.1になれたのにさ。一瞬よ。一か月だけよ。そしたらこんなことになって一気にNO.1から落ちちゃったじゃない」
「……意味が分かんない」
「たっちゃんにはね。お金も時間もかけてたの。たっちゃんが結菜についててくれたらずっとNO.1でいられたの。あんな金回りの良い客なんてそんな簡単には見つけらんないんだから」

キレ気味にアタシに話す目の前の女が、何を思って言ってるのか理解できない。
アタシの頭がおかしいのか、それとも道理がおかしいのか。

「好きだったんでしょ?だからアタシに別れてって言ったんじゃないの?」

「はぁ?本気で言ってんの?」

片目を下げてバカにした顔でアタシを見る結菜。
沸々と黒い物がこみ上げてくる。

「好きだから一緒にいたかったんでしょ?」

「ここは銀座だよ。言ってほしいんだったら誰にでも好きって言ってあげるけど」

勝ち誇った顔でアタシを見る結菜。

何かがアタシの中でキレた音がした。

「ナメんじゃねーぞ」
アタシの声とは思えない低い声。

「調子がいい時はチヤホヤして、世間から見放されたらポイって。人の男奪っといて、いらなくなったからって捨ててんじゃねーぞ」

「なん……」
驚いて腰を抜かした結菜に、更に詰め寄る。

「おまえなんかにあの人の何が分んのよ。おまえごときが銀座を語ってんじゃないわよ。銀座はそんな薄っぺらいもんじゃない。銀座は……あんたが想像も出来ないくらいの女の涙でできてんだよ」

腹の底の黒い物を吐き出すように言い捨て、アタシはお店を出た。
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