銀座のホステスには、秘密がある
「サラ。こっちにいらっしゃい」
作戦会議が終わって、車の到着を待つ間にローラママに呼ばれた。

メイクルームに連れて行かれると、無言で鏡の前に座らされる。

ローラママがテキパキと用意していたのは、ハサミとコテ。

「ローラママ……ありがとう」

しばらく無言だったローラママはアタシがめちゃくちゃに切った髪を整えてくれるらしくて……

「バカよ」
一言目に発した言葉は、震えていた。

「ローラママ……」
「あんなに綺麗にお手入れしてた髪を、こんな風に無茶苦茶に切って……」
「ごめんなさい」
「今まで頑張ってきたのに、これがバレたら、あんたは終わりよ」
「覚悟してる」
「バカじゃない!これまで自分がどれだけ努力してきたか忘れたの?」

忘れる訳なんてない。
女じゃないから、必死で女になろうとずっと頑張ってきた。

「たった一人の男の為に、あんたがここまでやることないのに……」

ローラママは泣いていた。
嫌われてると思ってたのに、こんなアタシのために涙を流している。

「ローラママ……ごめんね。ありがとう」

時々鼻をすすりながらローラママはアタシの髪を切り、上杉様風メイクを施してくれた。
これでマスクとサングラスをしたら、パッと見たら殿と見間違えそう。

「ありがとう。ローラママ」
「気をつけて……ちゃんと帰ってくるのよ」

ローラママの言葉に肯き、アタシはメイクルームを後にした。

もう戻って来られないかもしれない。
一瞬、そんな想いが胸を過ぎったけど、すぐに大丈夫だって自分に言い聞かせた。
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