銀座のホステスには、秘密がある
「あー。あちー」

吐き出すように愚痴をこぼし、充伸は黄色のタンクトップの首元をひっぱり中を扇いでいる。

あまりベッドの上を見過ぎないようにしながら、さりげなく聞くには今が一番良いタイミングかもしれない。

「おまえは?誰か好きな奴とかいないの?」

練習した通りに、さりげなく聞けたと思う。
更にその答えにはたいした興味もないように、参考書をテーブルに置いてノートを開く。

よし、おかしくない動きだ。

「あ?……そうだな。ま、いるって言えばいるかな~。いないっちゃいないし……」
「へ、へー」
おっとヤバイ。
どもってしまった。

「まぁ、そんな簡単にはいかねーよな」
「そうだな」
何が簡単にいかないんだよ。

「なぁ、晶。おまえ、付き合ったことある?」
「……ない、な」
なんだよ。
何を聞きたいんだよ。

「おまえだったらゼッテー女ついてくるって。今度二人でナンパ行かね?」
「行かねーよ」
「行こうぜ。可愛い二人組の女の子捕まえてさ。カラオケとかいいだろ?」
「興味ねーよ」
「なんでだよ!おまえ、女欲しくねーの?亮太だって彼女できたらしいぜ。あいつにできて俺らにいねぇっておかしいだろ?おかしいって。おまえだって悔しいだろ?悔しいに決まってるよな!」

「……」
「分かった。おまえに選ばせてやるよ。おまえが良い方選べよ。俺は残りでいいよ」
「な、何を選ぶのさ」
「女だよ。おまえが言えばついてくるって。俺が女ならおまえと付き合いたいって思うもん」

おまえ、それっ、何てこと言うんだ。
落ち着け俺の心臓。

充伸は俺の部屋の電球の向こう側を見てる。
何を見てるんだよ。
何を俺に言わそうとしてるんだよ。

「充伸。おまえさ……」
「あ!やべぇ!晶、ラジオつけろ。もう11時過ぎてんじゃねーか」
聞けよ、人の話を!

「早くつけろって。俺、今回、マジ頑張った。過去最高の4つもメール書いたし……」

得意気に指を4本出して笑う充伸。
笑うと太い眉毛が、ハの字になる。
そんなところは昔から変わってない。
「もう、勝手だな」

最近俺たちがハマっている深夜のラジオ番組。
なぜか学校の奴らのラジオネームまで把握していて、知ってる奴のラジオネームが読まれたら、それだけで興奮していた。

まだ、俺たちのラジオネームは読まれたことがなかったけど……

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