銀座のホステスには、秘密がある
「お名前は?」
「あの……本名はかすみって言います」
「可愛らしい名前ね」

「でも、名前は変えようと思っていて、できれば違う自分でいたいというか……」

分からなくもない。
アタシだって名前を変えて生まれ変わったんだから。

「アタシがお名前つけてもいい?」
「はい。ぜひ、お願いします」
「そうねー。ハナっていうのはどう?」
「ハナですか……」
「アタシの名前はね、平家物語の沙羅双樹の花からきてるのよ」
「サラソウジュ?」
「そう。沙羅双樹の花。だからサラとハナはイコールなの」
「素敵です」

そう言って笑った顔は可愛かった。
この娘、化けるかもしれない。

「サラさん。平家物語がお好きなんですか?」
「ううん。詳しいことは全く知らない」
「じゃ、どうして、サラってつけたんですか?」
「うーん。強いて言えば、戒め?」
「いましめ?」
「そう。調子に乗って全てを失ってしまわないように。思い上がらないようにってつけたの」
< 20 / 222 >

この作品をシェア

pagetop