銀座のホステスには、秘密がある
驚くほどいつものように静かにエレベーターの扉は開いた。

四角く切り取られた箱の外の世界もいつも通り。

さっきまでのアタシたちの気合の入れようは無駄だったんじゃないかって思った時、

「来たぞ」
男の人のそんな声が聞えてきた。

四角い世界をハナちゃん達が横切って行った。

「道を開けてください」
「ここはお店の前ですよ」
「もう少し下がってください」

ハナちゃん達の声が聞える。

「行くわよ」
エレベーターの中にあかねママの声が響くと、
アタシは彩乃の肩を抱きしめた。

「さぁさぁ皆様。わたくしどもクラブ モンテカルロでは紳士の皆様を毎日厚く歓迎いたしております。どうぞこれからもご贔屓に」

エレベーターから出たあかねママが口上を言うと、ハナちゃん達が一斉に決めポーズをする。
その瞬間アタシが出たから、一瞬誰もにも気が付かれなかった。

だけど、
「いたぞ」
その声を皮切りに、怒涛の時間が始まる。

「上杉さん。ちょっとお話を聞かせてください」
「矢部さんとはどうなってるんですか?」
「上杉さんが立場を利用したって話も出てますが……」

一斉に響く記者の声。
アタシらしくもなく一瞬ひるんだ。
だけど、彩乃がアタシの腰に抱き付く。

そうね。やり遂げなきゃ。

サングラスをして、マスクをはめて、殿の服を着たアタシは、上杉プロデューサーに見えるらしい。
ローラママに髪を整えてもらって良かった。

アタシを上杉プロデューサーだと勘違いした報道陣が猛攻撃を仕掛ける中、
彩乃の肩を抱き直し、アタシは胸を張って歩き出した。
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