銀座のホステスには、秘密がある
バレちゃいけないって必死に守ってきたものが、

「絶対そうだよ。サラだよ」
「あんなに綺麗なのに男だったんだ」
「知らなかったぁ」
他のお店の女の子が噂してる。

「あ……」

早く逃げなきゃ。
だけど、呼吸すら上手くできない。

そうしてる間にも、アタシがサラだと気付いた女の子がこっちを指さして、
笑っている。

「何してるんですか!」
左腕に衝撃を感じて見下ろすと、ボロボロになった彩乃がアタシの左腕を掴んでた。

「あと少しです。行きますよ」

彩乃に急かされるように引っ張られて、やっとアタシの足が動く。


角を曲がると、すぐに乗れるように後部座席のドアが開いた車が待っていて、
「こっちだ」
その前にゴンちゃんが立っている。

「早く」
彩乃に押し込まれるように車に乗り込むと、すぐに車は走りだした。

もう報道陣も追って来てはいなかった。

「サラ。上杉様も逃げ切れたって。気付かれずにタクシーに乗れて、今はサラの家に向かっているって樹里から連絡が来た」

「……そう。良かった」

ゴンちゃんの言葉にホッとするけど、さっきの光景が頭から離れない。

「サラさん、大丈夫ですか?」

彩乃が心配そうな目でアタシを見ている。

「大丈夫よ。ちょっと……疲れただけ」

そう答えると車窓に顔を向けた。

さっきまでの騒動が嘘のように静かな車内。

聞こえるのは車のエンジンの音と、
アタシの早鐘を打つ心臓の音だけ。
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