銀座のホステスには、秘密がある
誰にも会わないで、ただ家にいた。

実家に帰ってる殿からの電話にも出なかった。

何もする気が起きない。
何をしていいのか分からない。

そんな生きてるか死んでるか分からないような生活をどれくらい続けたんだろう。

ある日、彩乃が家まで訪ねてきた。

せっかくの休みの日に、アタシなんかのとこまで来るなんて彩乃は人がいい。

「なに?」

だけど、その人の良さが今は窮屈に感じる。

そっとしておいてほしい。
男だとバレてしまって惨めな状態を誰にも見られたくないのに、彩乃はその辺は分かってくれない。

「サラさん。元気でしたか?ケーキ買ってきたんですけど、一緒に食べませんか?」

玄関先で立ち話してるのに、彩乃は家に入るつもりでいるらしい。
しかもアタシが太りやすいの知ってるくせに、ケーキって何?

「ごめん、彩乃。何も食べたくないの。今日は帰ってくれない?」

アタシの目の前から早く消えてほしい。
何も努力しないでも可愛くて、そこにいるだけで幸せな気分を作り出せる彩乃なんかにアタシの気持ちなんて分かる訳なんてない。

「みんな心配してますよ」
「……そう」
「お店、出てきてください」
「……」
「サラさんらしくないですよ。いつも輝いててみんなの憧れだったサラさんに戻ってください」
「戻れる訳ないじゃない!」

我慢してたのに、
「男だってバレて、みんなに嘘ついてたことがバレて、平気な顔して戻れる訳ないじゃない!」

堰を切ったように、
「アタシらしいって何?彩乃に何が分かるのよ!」

真っ黒い感情を、何も悪くない彩乃に吐き出してしまった。

「サラさん……」
泣きたいのはアタシの方なのに、目の前の彩乃が泣いてる。

「帰って」
「諦めません。サラさんはこんなことで終わる人じゃありません。きっと戻って来てください」

彩乃の目の前で玄関のドアを閉めた。

最後に見えたのは、彩乃の必死な顔。
アタシのことを好きだと言ってくれた彩乃。

彩乃は心配してくれただけなのに、これじゃ八つ当たりだ。

ここまで落ちた自分が恥ずかしい。

けれど、もうどうしようもなかった。
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