銀座のホステスには、秘密がある
彩乃の訪問、あかねママの手紙、その次は意外な人からの呼び出しだった。

不意に届いたメール。
「今、あんたんちの近くにいるから、来なさい」
既読にしたけど、そんな気分にもなれず放置しておいた。

その途端、電話とメールの猛攻撃。
何が何でもアタシを呼び出したいらしい。

無視するのも疲れ果て、指定された喫茶店に向かうと、小さな扇子をパタパタさせてスマホに文句を言ってる龍太郎ママがいた。

「遅いじゃないのよ。あたしを待たせるなんて良い度胸してるじゃない」
「……」
普段ならその睨みで何でも言うことを聞いてしまうけど、今日のアタシはそんな反応もできない。

「サラ。お店に行ってないそうじゃない」
「……」
「辞めるの?」
「……だってもう働けないでしょ」
「そう。辞めてあんたに何ができるの?」
「……」
「この仕事以外にあんたが生きてけるとこなんてあるの?」

ない。

それを言われると何も言えない。

龍太郎ママの言ってることは真実。
今更、他の仕事に就くことは怖くて、無理だと思える。

だから決心がつかなかった。
こんな風にふらりふらり生きて、結論を先延ばしにしてたのは、結局は決める勇気がなかっただけ。
この仕事から離れることの未練が立ち切れない。

「意地張らないで、うちにいらっしゃい」
龍太郎ママの小さな扇子がピタリと止まった。
< 209 / 222 >

この作品をシェア

pagetop